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福岡地方裁判所小倉支部 昭和33年(ワ)751号 判決

原告

右代表者法務大臣

愛知揆一

右指定代理人

船津敏

坂本斎治

阿久津三郎

福岡県遠賀郡水巻町大字頃末一〇二四番地の一

被告

大八木正敏

右当事者間の昭和三三年(ワ)第七五一号詐害行為取消請求事件について、つぎのとおり判決する。

主文

昭和三十年十二月七日別紙目録記載家屋につき、訴外中溝利一と被告間になされた譲渡行為はこれを取消す。

被告は原告に対し金二十三万円及びこれに対する昭和三十三年十二月二十二日以降完済まで、年五分の割合による金員を支払わなければならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として一、訴外中溝利一は昭和三十年十二月七日現在において、昭和二十六年度ないし昭和三十年度の所得税本税金三十一万五千八百五十円、同加算税金一万六千百円、利子税及び延滞加算税金九万九百四十円、合計金四十二万二千八百九十円の国税を滞納しているものである。二、そして訴外中溝は昭和二十九年五月十二日飯塚信用金庫より別紙目録記載家屋(以下本件家屋という。)を買受け、所有権移転登記を経由しないまま、同家屋において飲食店を経営していた。三、ところが訴外中溝は昭和三十年十二月七日にいたり、本件家屋のほか他に、何ら前記滞納国税を担保し得る財産を有しないにかかわらず、右滞納国税に基づく滞納処分を免れるため、故意に本件家屋を債権者である被告に代物弁済し、被告は右事実を知悉しながらこれを譲り受け、同日中間登記を省略して直接飯塚信用金庫から被告名義に所有権移転登記手続を完了した。四、よつて原告は国税徴収法第十五条の規定に基づいて訴外中溝と被告間になされた前記譲渡行為の取消しを求めるものであるが、しかし本件家屋はその後善意の第三者である飯塚信用金庫のため、受益者である被告から昭和三十一年五月二十二日福岡法務局飯塚支局受付第三八一八号債権極度額金六十万円及び同年七月六日同支局受付第六一七八号債権極度額金三十万円の各根抵当権設定登記がなされており(極度額借入れ済み)、右抵当権は本件国税に優先するので、たとえ本件家屋の所有権を債務者である被告に回復したとしても、原告としては何らの実益なく、また受益者である被告は前記抵当権設定によつて実質的に利得を失つており、その登記の抹消登記を求めることも不可能又は著しく困難と認められるので、ここに原告は被告に対し、詐害行為に因る利得の返還に代わる損害賠償として本件家屋の時価相当額金二十三万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和三十三年十二月二十二日以降完済まで、年五分の割合による民事損害金の各支払いを求めるため、本訴請求に及んだと陳述した。

証拠として甲第一号証ないし第八号証を提出した。

被告は請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張一のうち訴外中溝が若干国税を滞納していたことは認めるが、その額は不知、爾余の原告主張事実は全部否認すると述べた。

証拠として甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

訴外中溝利一が若干の国税を滞納していることは当事者に争がなく、その額が原告主張のとおりであることは成立に争のない甲第一号証によつて明らかである。そして、右事実に成立に争のない甲第二号証ないし第八号証と弁論の全趣旨を綜合すれば、原告その余の主張どおりの事実を認めるに十分であつて、叙上の事実関係に徴するときは、訴外中溝と被告間になされた本件家屋の譲渡行為が、国税徴収法第十五条のいわゆる詐害行為に当ること明らかといわねばならない。そしてまた本件においては原告主張四のとおり本件家屋は、その後、被告から飯塚信用金庫のため債権極度額合計九十万円(借入済み)の根抵当権が設定されており、右金庫が抵当権設定当時善意である以上は、右抵当権は本件国税に優先すると解されるので、たとえ本件家屋の所有権を訴外人に回復したとしても、原告に何らの利益がないというべきのみならず、右抵当権設定登記の抹消を求めることも、社会通念上、不可能と認められるから、このような場合には、債権者は受益者に対し、その保有せざる利得の返還に代えて損害賠償を請求し得るものと解するを相当とすべく、本件家屋の時価が金二十三万円と認められること前記認定のとおりであるから、受益者被告は債権者原告に対し詐害行為に因る利得の返還に代わる損害賠償として右金員及びこれに対する訴外送達の翌日であること明らかな昭和三十三年十二月二十二日以降完済まで、年五分の割合による民事損害金の各支払義務があるものと認めねばならない。

以上の次第で本訴請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 入江啓七郎)

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